「アンモナイトの目覚め」感想

(結論からいうと期待していたのと違っていた。ネガティブな感想になってしまうので先に良かったところを書いておこうと思う。)

構図の使い方やカメラの動きは技術的なのにさりげなくてすごく好き

箱(てかあの箱って結局何?)から出るシーンとか


軟膏をもらいにいったとき、はじめにブランコがなんの説明もなくドアップになった後でそこの女性と何かしらあったのが分かったとき、あのブランコでいちゃついたかそれに準ずる思い出があったんだろうな…と言外に思わせられたのが情緒的だった

あとすりガラスの向こう側から彼女がドアを叩くシーンも、彼女の内面が見えてこない不安な感じが出ていて良かった  最初にアンモナイトを掘り出すために崖に登るシーンも好き 小道具としては壁掛けの鏡の不安定さが面白くてどこかで使いたくなった

 

社交的な場に出ることが多い階級の人は社交的なスキルを自然と獲得していく、だがそうでない人は論理的に喋るスキルが低いのでセールストークも出来ず…みたいな理論をやりたいのは伝わったし新しくて良いと思った


(以下ネガティブな感想を延々と書いています。)











正直にいうと、脚本3人ぐらいで分担して書いたのかな?って思っちゃったくらいキャラの内面に一貫性がなくて、話が数十分単位でぶつ切りにされているみたいに感じた。

「こういう理論でこういうセリフ・構図を入れればこういう風に感情が生まれて盛り上がるんだろう」という大まかな流れは頭では理解できた。でも、例えば場面aから場面bに行くまでの人物の微妙な感情の変化に説得力がないところが何回もあって、細かい疑問が積み重なっていくので流れに気づけたとしてもそこに乗せるべき感情が湧いてこなかった。


具体的なシーンでいうと、


○ 主人公と相手役の彼女との2人が行ったパーティの場で主人公が社交に馴染めなくて孤独を感じる(帰宅してからあの時のあなたは輝いていたよと慰められる)

⬇︎

○ 翌朝砂浜で昨日の埋め合わせをするかのように優しくしてくる彼女と一緒に作業する

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○ 帰ってからキスする 


の場面。見落としがあったりしたら申し訳ないんだけど、初めてのキスシーンとか一番盛り上がるシーンのはずなのに(いやなんでなん???)ってなってしまった。私だったら孤独の根本的解決(おそらく階級の違いや個人的な事情などあるだろうけど)がされていないのに安易に慰められてもイライラが増してしまうだけだと思う。

一般的な慰めや励ましや共同作業を彼女らが行ったからといって「この物語特有の背景や事情を持ったキャラクターが」葛藤が解けて愛を育み出す理由にはならない。

上に挙げたシーンだけでなく他の部分もそんな感じで進むところが多く、全体的にどうして?の部分に説得力とリアリティがないままに簡単に愛情や慰めが成功しすぎる &肯定や好意が安易すぎる。安易すぎると物語のリアリティのラインが下がって、展開やキャラクターのパーソナリティに感情を乗せられなくなってしまうなと思った。


主人公たち二人が抱えている葛藤がすこし現代人的すぎるように見えたし、会話もなぜか最初から対決的すぎて、洞察力が足りないように見えてしまってこの時代の女性2人であるという舞台設定を用意した理由が分からなくなる。主人公は何に囚われていて、何が大切なんだろう?相手役は結局何が苦痛だったの?主人公と一緒になりたいっていつから思ってたの?そもそもなぜ題材がアンモナイトである必要があったの…?(自然から生まれる秘められたエネルギーみたいな説明があっても良かった)みたいなことにすら疑いを持ってしまった。


あとはメイン(主人公と相手の恋愛関係の進展)以外の要素が多すぎたと思う。親との死別、階級の差、個人的な関係を築くことの難しさ、過去の女性との関係、学者としての女性の地位の低さ、アンモナイトがもつ価値の二面性…等々。でもこれらも大元のテーマがバッチリ決まっていれば複雑さをもたらすアクセントになるんだとも思う。(親との死別はアクセントには大きいテーマな気がするけど)

要するに描きたいことがたくさんあってもまとまりがないと伝わらない…というかそもそも書き手がちゃんとよくわかってないまま書くと観客には伝わらないんだなと思った。(肝に命じます…)


性的なシーンや立ったまま野外で排尿するシーンも、意義があるからやっているというより評価されるためにやっているように感じて冷めてしまった。




全部書き出してみると結構きつい感じになってしまった 期待していたのと違ってたと判断に至った後はなぜダメなのかという根拠をひたすら回収する作業に入ってしまうな…。